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AMBIENT KYOTO 2023 〜中村周市氏INTERVIEW〜

  • 西村
  • 2023年12月31日
  • 読了時間: 10分

更新日:2024年1月11日


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AMBIENT KYOTO が昨夏に引き続き開催されていた。

京都新聞ビル地下1階に坂本龍一 + 高谷史郎、京都中央信用金庫 旧厚生センターにコーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一を迎え、音と映像と光のインスタレーション展が行われた。


皆さんは生活の中で、どのくらい音を聴いているだろうか。

私は、生活の中ではっきりと音を意識して聞く機会が無い。普段の音楽体験ってどのようなものだったかなと思い返してみる。すると、日常生活の附属として存在していることに気づく。例えば、街をゆくときにワイヤレスイヤホンから音楽を流したり、家事をしながら音楽を流したり...、また、音楽だけではなく、音自体への意識があるのかないのかわからなくなってしまうほどに、ここにはどんな音が鳴っているのかわからない。街では、家では、京都では…?

聞こえなかった音が聞こえたり、空間の広がりが見えなくても響き方で把握できる/見えたり、そのような音に対しての意識が変わる体験をAMBIENTKYOTOでさせてもらった。



坂本龍一+高谷史郎 async - immersion 2023


 架空のタルコフスキー映画のサウンドトラックというコンセプトで作られた、坂本龍一さんのアルバム「async」が流れている。今回の素晴らしい音響で「async」を聴きながら、自分が、音や声と親密だと感じた。デヴィッド・シルヴィアンの肉声は、親しい人に囁かれるような感覚だったし、録音された身近な音がリアルな距離で鳴っていた。コンセプトとしても挙げられている、タルコフスキーの映画音響は、とてつもなく色っぽい。音響にこだわっている様子がよく語られるが、雫の音ひとつで全てを完結させてしまうような音の魅力は、艶やかな色っぽさで伝わるだろうか。タルコフスキーの映画、そして架空のサウンドトラックをより表現できた展示だったのではないかと思う。

 



 高谷史郎さんの映像作品に関して、自然vs人工のようなイメージを持っていた。それは、新聞の印刷工場というインダストリアルな会場と、厳正自然からあえて自然を一旦切り離してプリントされていくような作品性からだと思う。しかし、長く付き合っていく中で、私の体に馴染んで、浸透して、違和感がなくなって、体の一部であるかのように受け入れられるようになった。度々、私の故郷なのではないかハッとさせされる。この森や水や花が、何処か知らない場所には思えない。何故か落ち着いてしまうのには、関わった時間も関係しているのかもしれないが、作品が纏い始めたオーラがある。あの流線が、時空を表す「年輪」だというのが、私なりの最後の答えだ。木が刻んだ線のように、年月を積み重ねている作品には、凄みがある。


私たちの生活を取り囲んでいるもの、その周囲にあるものが「アンビエント」であり、アンビエント・ミュージックはそれが流れる環境・風土の一部となる音楽ともいえます。変化を続ける社会のなかで、この定義もまた変容し、多様化しつつある現代。「アンビエント」な感性は、これからの人間が環境・地球とどう向き合っていくべきかといった新たな価値観にもつながっています。


と、ブライアン・イーノの提唱したアンビエントについての文章が公式サイトにあるが、時が吸収される(三ヶ月の展示が終わってしまう… !)という無常も、重要なアンビエントの捉え方なのではないかと思う。





INTERVIEW


AMBIENT KYOTOを主宰するTraffic代表・中村周市さんに「遡る」をテーマにインタビューを行った。

(interview / 西村紬)


–  2回目のAMBIENT KYOTO開催にあたっての経緯をお聞きしたいです。


中村 周市:

昨年の開催が、プロデューサーのTOW竹下さんはじめとする皆さんの力を合わせて大盛況となったので、それを受けてやりたいなとは思っていて。実際の流れとしては、小山田さんやZAKさんなどが去年の展覧会に来てくださっていたんですよね。展覧会終わった後にお話をしていたところ、参加できそうだというところで、今回に繋がったという感じですね。坂本さんに関しても、生前にご参加の意向をいただけていました。バッファロー・ドーターは制作として昔担当していて、その縁でお願いしました。そこから、山本精一さんなどの出演者の方々にお話をしましたね。



–  アーティストの方から決定していくという流れだったんですね。


中村:そうですね。アンビエントっていうのは、解釈がすごく色々あるので。解釈を限定せずにまたもう一度問いかけてみたいなと思いました。「アンビエントとはこれです」みたいな感じじゃないところで問いかけをしたいっていう点も含めて、アーティストの方の幅を広く取りました。


–  なるほど!


「アンビエント、音楽ジャンルとしてのアンビエントじゃなくて、ライフスタイルの1つという捉え方ができる」

とおっしゃっていたようなことですね。


中村:まさにそういうところですね。

アンビエントは、1つの音楽ジャンルっていうより、生活のスタイルとしてあるものだから、解釈が広義的ですよね。何をするにしても、定義付けて固定観念を持つのではなく、求めれば求めるほど解釈が変わってって、気づいたら新しい場面に出ると思っているので、興味に沿って進んだら 新しい場面に出てるとか、そういう発見の可能性も残してくべきだと考えています。



–  そういう意味では、全部繋がってくるし、音楽ジャンルも余裕で超えていくイメージはあります!


中村:アンビエント音楽というのは、聞いても聞かなくてもいいっていう価値観の転倒から始まっていますが、全てはそこですね。



–  アンビエントの定義自体も転倒かもしれないですしね。


中村:そうだよ。そういう音楽ですってBrian Enoが言ってから、色々な捉え方や考え方がどれだけ自由になったか。



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–  決定的な解釈がない展示ですよね。アンビエントについてもですし、今回の展示自体も各々が自由に感じ取ってると思うから、いろんな色の解釈があると思います。そういうものを展覧会に持ってくるための技や、工夫された点はありますか?


中村:展覧会とか行くと、作品に解説がいっぱい書いてあるじゃん?それとは反対に、入口のところに、「ありきたりな日常を手放し、別の世界に身を委ねることで、自分の想像力を自由に発揮することができるのです」というEnoの言葉のみを置いたんですね。展示空間との対話を優先して欲しいと思いましたので。

 

中村:今年に関しては、去年のイメージを元に、更に新しい解釈をしたいということで、捉われない作品性もありますし、皆さんそんなに苦もなく、受け入れてくれてる感じはしますね。



–  純粋に楽しんでくださっています。


–  今回も京都のライフスタイルに溶け込んだアンビエントの展覧会というのを意識されていましたよね?


中村:そうですね。



–   今年は会場が増えて、京都新聞ビル地下1階を使っていると思うんですけど。京都新聞ビル地下1階を会場にしようと思われたきっかけはありますか?


中村:坂本さんの展示に関して、ある程度大きい空間が必要だったっていうところがあって。実行委員会にも入っていただいている、京都新聞社さんに許可をいただいたという流れでした。本当に、世界に誇る空間です。



–  私もそう思います。展示との関係性も素晴らしいです。自然の映像が流れているのに、インダストリアルで!


中村:まさにそうですね。今回の展示にふさわしい空間です。


中村:もう跡地になっている空間というのは、ずっと閉じ込められて、忘れられています。またそこで、あの作品によって、展示空間として見られ、人々によって命を得ているようです。



–  まさに「遡る」ことのできる場ですね。


–  霧を噴射する霧中夢や、新聞地下のあの空間を使っての作品は、ほんとに例を見ないです。お客さんも新鮮な体験をされてる印象でした。


中村:そうですね。霧中夢は小山田さんのアイディアですね。例を見ない展示ができて喜ばしいです。だから、曲と視覚・聴覚を含めて具現化したのが、あの展示の形となりました。



–  すごくアーティスト志向というか、アーティスト方面からのアプローチをされているんですね。


中村:アーティストの方のご意向も重要視していますが、企画・会場・アーティストの方のご協力あって、この空間が生まれます。



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–  絵画とかを見る展覧会は、意識が物(マテリアル)へ向かっているとしたら、AMBIENT KYOTOの展覧会は、音楽と音響を経験するという体験型のものだと思うんです。そういった表現の難しいものを展覧会に持ってくることについて、何か苦労されたことはありましたか。


中村:まず、 聞いても聞かなくてもいいという音楽がアンビエントなんですけど、価値観の転倒が面白いので、そういうことをやろうとは意識していました。何かに縛られずに面白いことができるんじゃないかなっていうところで、色々やってますね。



–   日本は、芸術に触れる時間や文化があまりないことから、体験型の展覧会が少ないと思っています。芸術に2時間、3時間とかを費やすとは思えないのですが、それを実現されています。どうやったら人に多くの時間を使ってもらえるのかお聞きしたいです。


中村:参加いただいたアーティスト、そしてZAKさん、高谷史郎さんはじめとする展示ディレクター、制作スタッフの方々による細部にわたるまでのこだわりの賜物です。

 


–  そうですね。本当に「没入」という言葉がふさわしい。

没入に関して、音を可視し、体全体で感じることができるのが素晴らしいと思います。旧厚生センターでは、霧中夢やQUANTUM GHOSTSがそうですし、新聞社地下では光の線が落ちてきたり、ドゥワーンと両端から線が動いたりしますよね?

 

中村:音は空気の振動なんですね。ZAKさんがおっしゃっていたんですけど、良い音は体に受ける波が良いから、受け取った細胞活性化して、体が楽になったりとかするだとか。全身で音を感じていますね。



–  !!人間が求めている効果がある可能性があるってことですね。

そういえば先日、北海道からのお客さまで、連日の寒さによるアイスバーンで転んでしまって、左目を打撲されていた方がおられました。新聞地下の展示を見ていたら、頭痛がなくなったとおっしゃっていました。その時に、音の振動はすごいと再認識しましたね。



–  展示を体験した後、外に出た時に、ノイズにも関連性を求めて聞いてしまいます。音が生活に入り込んでいると思うんですよ。今回の展示の感想を皆さんに聞いたりする中で、おそらく音に特別な関心のなかった人も、そういった経験をされていると思いました。


–  特別な音響体験から、この良くなった耳をずっと自分の中に定着させるアイデアはありますか?


中村:何気ない自然の音がだんだん気になってくる、素晴らしいことだと思います。音楽、もしくは音を聞くことと、他の生活を分けることなく、例えば、外からの騒音は対立するものだったけれど、そうじゃないように考えられるとか。 展示室の中で赤ちゃんが泣いたら、それも1つの展示空間の中の出来事として捉えられるし。そういう意識を持っていくと、また新たな発見があると思います。


中村:自分にしか聞こえない音とかもあると思うんですよね。 自分の体内なのか、家の中の音なのか。または、集中して何かをやっている時に、急に音が聞こえなくなる現象があると思います。鳴っているはずなのに、これも自分の意識の違いで。私は、作業に集中するために、CD1枚分の間だけやろうって始めることもあるけど、そういえば全然聞いてなかったなってなる。終わったことにも気づかないみたいなね。

そういうことで感覚として、発見があるから面白いんじゃないかな。



–   以前、ここ、しばしに来させてもらったんですけど(しばしの2階でインタビューさせていただいている)、曲の尺というものははっきりとあるんだけど、庭の景色や漢方茶の味を含めて、決まりきっていない音楽を聴けました。


中村:もちろん、Spotifyのプレイリストなどデジタルで便利なものの方が、今の世の中には根本的にベースとしてありますよね。その中で、少し音を意識したり、自分の音の感じ方を見つけてみたりするなど、そういうことへの意識を更に深めていくと面白いですよね。



音にフォーカスできるのはもちろん、加えて映像や光によって、普段聴こえないもの・見えないものを体感してもらえるという素晴らしい作品であり展覧会だったと、中村さんのお話を聞きながら思い返した。

私は今後も自ら音に触れる生活を送るのだろうし、誰しも普段の何気ない生活の中で音に触れる機会はあると思う。その際には、アンビエントしながら(環境に身を任せながら)も、意識を少し変えてみることは、生活がさらに豊かになるポイントなのかもしれない。


(文 / 西村紬)

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