top of page

肉のある食卓までの過程

  • 西村
  • 2024年2月18日
  • 読了時間: 7分

 [警告] センシティブ(血など)な写真が記事内に含まれます。


 普段肉を食べて生活している人も多いだろう。その肉はどのような環境で生きていて、どのような工程で獲られ、どのように解体され食べることができているのか。肉といっても、狩猟で狩ることのできるものは定められており、野生動物が多くなっている。今回は鹿肉の加工を見学した。


一般社団法人 大日本猟友会「狩猟への誘い」


洛北猟友会に所属されている今井さんにお話をお聞きした。今井さんは、京都の岩倉に解体所を持っておられ、狩ってきたものをそこで解体し、大原の朝市に出したり、京都の料理屋さんに提供している。



宝が池公園の鹿

 狩猟をすることに対して、


「かわいそうとかいう声もあると思うけど、食べるためだけに飼ってるよりは、まだ少しかわいそうじゃないんちゃうかなとは思いますけどね。家畜でも野生の鹿でも最後はこの状態になるわけなので。」


とおっしゃった今井さんの解体を進める手は、手際の良いものだった。

 解体を見せていただいた1頭目の鹿は、宝ヶ池公園の山で取れたものだ。取材日の1日前に罠に引っかかっており、解体の時点では鮮度が落ちていた。宝ヶ池公園で取れたと聞いて、「宝ヶ池?! 私の大学への通学路!」と驚いた。そういえば確かに、夜になると沢山鹿が出てくる。下校中、自転車を爆速で走らせた際に、闇に光る幾つもの眼に驚かされた。

 京都市の方から駆除の依頼があり、宝ヶ池では、年間で300頭くらい狩っているそう。


「鹿は、公園内の雑木林の新芽も食べるから、草が生えてこなくなって、ハゲ山になって...で、 最終的にそういう草がなくなると地崩れとかするんですよ。木も育たへんし。雨とかで山が崩れやすくなったりとか。それに、鹿が直接車やバイクに当たることもあって。新聞配達の人が亡くなったこともあって、本当に危ないよね。」


動物は自然のものだから、駆除することは自然破壊というイメージは今すぐ捨てるべきだ。鹿の増殖によって森が育たないことなどの問題が生まれている。



ree


京都の狩猟事情


 京都市猟友会の洛北支部に所属されている今井さん。岩倉、大原、八瀬はもちろん、一乗寺ぐらいまでの範囲が、「猟場」と言って、狩猟することのできる範囲だという。有害鳥獣駆除というのは、自分の持っている猟場しか許可されていない。京都府で狩猟者登録行うと京都府内の狩猟が許可され、他府県で狩猟をするためには、他府県の登録も取らなければならない。京都のほとんどの山に行かれており、精華大学の裏山も猟場だという。(精華では、よく鉄砲の音が聞こえるのだが、今井さんが狩りをしていた音だったのかもしれない)精華の裏山は、シダの葉っぱがものすごく多い。鹿や猪はシダの中で寝るため、シダが多い山ではよく取れるのだ。

 基本的に「まき猟」という集団で行う方法だが、一人で山に入る場合もある。比叡山に関しては、最近罠で溢れてしまって、狩猟犬を離すことは危険なため、1人で行くことも多いという。しかし、鹿も生きるために必死だ。罠を入れすぎたことによって、鹿が減少しているという。

 洛北猟友会は、鉄砲がメインの猟友会であるため、罠を掛けることはあまりない。先ほどの話のように、罠のかけすぎで狩れないなど、鉄砲漁師と罠猟師には方針の齟齬が生まれているようだ。


絶品駆除鹿の解体



「猪は脂を残してなんぼなんで。これはもう食肉としては売れへんやつなんで、 脂が皮についていても大丈夫なんですけど。猪の場合は、刃を数ミリずつ慎重に入れていって、脂を綺麗に身に残すような解体の仕方になるんで。」


 左の画像のような赤身が見えているのは、脂がのっていない肉となる。売れる肉に関しては皮ではなく肉に脂が残るように皮剥きをする。

 肉が臭くなってしまうため、右の画像のように、血抜きをして、内蔵を最初に抜いてしまう。内臓を抜いてから吊るして、そこからだんだん頭に向かって皮を剥いていくという工程なのだが、腿辺りまで切り込みを入れてしまったら、スルスルと首元まで一気に剥ぐことができた。そして、最後に首を取った状態が、基本的な解体後の形となる。

 鹿を水に浸けると、粘膜が水を吸うため、つるんと剥けると言う。しかし肉の味は、落ちる。

「うちは自分で獲ったやつは絶対水につけへん 。鹿肉はほんまに水をよく吸うから、もう一瞬で水でぷるんぷるんになるな。あと、筋肉っていうのはやっぱり繊維やから、水を吸いやすい。」



ree

アキレス腱の切断


普段はアキレス腱を切ることはないが、罠によって怪我をしており、ふくらはぎがダメになってしまって避けるために切っているという。

 

「罠にかかって1日ちょっとたっちゃってて、かかった状態で。そうなるとすごく 肉質が落ちるんですよ。これはもう販売用とかにはならないんですけど。」




ree

黄色くなっている。


「これは、罠にかかった状態で暴れて出てきたリンパ液です。1日経っただけで本体に色がつくし、もし2日とか置いてたら、もう全身黄色くなって、見た目も美味しそうじゃなくなる。」






ree

ピンク色になっている。普通は真っ赤な色だが、鹿は汗をかいて放熱することができないため、罠にかかって1日ずっと暴れていると、肉が低温調理みたいになってしまう。このような状態になった肉は、もう売ることができない。


「罠にかかって1日経過するのは、やっぱり長かった。このようにリンパも回るし。これも背肉の一番いい部分やけど、火が回ってこのままレアとして食べれそうなぐらいになってしまってるね。」



 内腿といって、腿の中では1番いい部分をいただいた。

「薄くスライスして、バターとオリーブオイルでさっと焼いて。火を入れすぎると赤身やから、縮んで硬くなって美味しくなくなるんで、もしくは半分に切って、ローストしてもいいかも。焼き上がってから切って食べてみてね。」


 絶品。帰って、言われた通りバターで3分ほど焼いて調理した。脂が少なくさっぱりとしており、美味しくいただいた。中が少し赤く、でも生々しくはなく、臭みもほとんどなく、鹿肉の美味しさに目覚めた夕食だった。




食肉以外の利用


猟犬の食物

先ほど見たように、リンパ液がしみてしまったり、焼けてしまったりした肉は、犬の餌になるという。販売することができず、人間が食べられない部分は、美味しそうに犬が食べていた。犬にとってはとても贅沢な食べ物だろう。自ら獲ってきた動物の利用方法として当然のことであるかのように、一切の無駄がないサイクルが行われていた。


鹿の角

角は、このまま販売したり、ナイフの柄にしたり、 アクセサリーにしたりすることで利用している。今回、卒業展示用に購入させていただき、御草惣フリーペーパーの本立てと、装飾として利用した。この鹿の角はもちろんオスだが、時期によってはオス・メスどちらも狩るという。猟期は大体11月〜2月の期間なのだが、冬のメス鹿は、お腹に子どもがいるため、脂がちょっとのりにくくなってくる。逆に餌がたくさんあるところのオスだと、脂がのってくることもあり、特に鹿はその地域の餌事情とその地域特有の習性みたいなのが影響してくるという。


毛皮

毛皮を鞣して、装飾や絨毯として使用できるように加工していた。新聞紙に巻かれていたのだが、特に猪は脂が多く、毛皮から水分を抜くことが重要だという。





販売について

 鮮度のいい、販売できるお肉がここで販売されている。店舗は構えず、大原の朝市に行って売ったり、インスタで注文もらって発送したり、料理屋さんに卸すことが多いという。


「京都の料理屋さんがほとんどやね。ほんとに鹿肉を上手に使わはんのって、フレンチをやってる、フランス人のシェフとかがすごい多い。やっぱり向こうは、ジビエがすごい得意やから知識もあって、丸ごと一頭扱える人が多い。フレンチでは、一頭丸ごと使うから、こちらとしても販売しやすいよね。フランスって昔は、全然いい食材が入ってこうへんとかって言うんやけど、食材が旬などである時に買うのが普通やってん。昔は日本でも一緒やって、鹿とか野生のものは、ある時に全部買ってしまうっていうのが普通やったんやけど、最近は流通が広がってきてるから、 部位ごとに買う人も結構増えてきてるけど。でも駆除がどんどん進んで、数が減ってきて、今ほど取れへんようになったら、今度は一頭買いの流通が多くなると思う。」


 流通をする中で無駄が出ない扱い方というのも、料理人や消費者側が考えていくべきだと感じた。ジビエを扱う技術があることは、猟師にとっても重要視される部分であった。



「生命」というテーマを扱うにあたって、動物の命に対する気持ちだったり、動物を狩っていただくというような行為をすごく壮大なこととして捉えていたが、もっと単純な淡々とした行為だということを、実際見学して驚いた点だった。しかし、それは驚くまでもなく、野菜を育てるのと同じ感覚で、人間が生きるための仕事であると感じた。実際にいただいたシカ肉が美味しくて、宝ヶ池の鹿と、今井さんの狩猟・解体技術に感謝した。



洛北ジビエ イマイ


Instagram 

@rakuhokuzibie_imai



  • Twitter
  • Instagram

​御草怱

​自然を知ることをきっかけとしたwebメディア

bottom of page